仕事の原点 ~シーズン1~
私はライティング株式会社の代表取締役です。
本の編集や出版、執筆にかかわる仕事をしています。
ときどき、ふと、思うのです。
どうして、文筆業を職業として選んだのだろう――と。
そういえば大学受験をしていた23年前にこのような、ことがありました。
私は私立文系を目指して勉強していました。
受験科目は、国語、英語、世界史の三科目でした。
なかでも、国語の点の取り方がわからなかったんです。どうしても。
受験勉強をスタートさせたとき、偏差値は45ぐらいでした。
だから、何をしたと思いますか?
変わったことは、何もしていません。
ただ、授業の予習を徹底的にやったんです。
それこそ、徹底的に、です。
うさぎとカメなら、カメ的な努力です。
20分ぐらいで解ける現代国語の問題を、2時間も、3時間も、かかって解いていました。
それだけ、です。
本当にそれしかやっていません。
その代わり、その著者が何を言っているのか、何が論点なのか、どのような思想をもっているのか、が半年ぐらいで、完全に分かるようになってきたのです。
そのとき、予備校の友達は、みんな現代国語の授業の予習を軽んじていました。
極端な人は「あの先生の授業はおもしろくないから、出席しない。」
とまでいい放って自習室にこもっていました(笑)。
※自習室ではもちろん、他校の予備校の有名講師の参考書を買ってきて、解いているんですね。
でも、私はそう思いませんでした。
先生はどうでもいい、先生のせいにしてはいけない。自分で考えて出た答えが、果たして正解なのかどうか、正解を導き出したプロセスは、先生と同じかどうか――それが大切だと考えたのです。
ですから、先生のよいorわるい、は私にとって、関係なかったのです。
私の通っていた予備校は、京大をめざす人のためのものでした。
その予備校の私立文系クラスというのは、いわばオチこぼれクラスです。
クラスメイトもみな、そんな厳然たる事実を知ってます。
そして、その落ち目のクラスを担当する講師が、京大クラスに比べて、
数段落ちていることも知っています。
だから、そんなおませな生徒は現代国語の教師の悪口を言って、授業に出席しなかったんですね。もちろん、それも理解できますが、そのために授業の予習をしない、というのは、どうでしょうか。
私は、そんな先生にも、かかわらず、
コツコツ、コツコツと毎日、授業の予習を繰り返しました。他校の有名講師の参考書にも浮気してません。レベルの低い?!(失礼)先生の、淡々とした授業を毎日、受け続けただけです。
でも、そのおかげで、現代国語が好きになりました。
わかるように、なりました。
そして、「本自体」が好きになったのです。
だから、あなたのことを、批判してすみません。
一回だけ、あなたに質問に行きましたね。
もちろん、他の有名講師の方みたいに、質問のための行列はありません。
講師室にいくと、ひまそうに(失礼!)、タバコをぷかぷかしておられて、私の質問に誠実な答えを返してくださいました。
でも、あなたのお陰で、いまの私の職業があるような気がします。
23年たったいまでも名前を覚えています。
ほかの有名講師の名前は、もう忘れました。
H先生――
おそらくもう、故人でいらっしゃるでしょう。
だから、お名前をだしても、かまいませんよね。
本当にありがとうございました。
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